ありそうでなかった「仏像年表」(国宝・重文)―京都・奈良を中心にー

2023年5月1日

 日本に仏教が伝来した時期として二つの説がある。一つは538年説「元興寺伽藍縁起並流記資財帳」、他は552年説「日本書紀」で、どちらも百済の聖明王が仏像や仏具類を日本に献じたことを伝えている。何れにせよ6 世紀半ば頃、日本に仏像とともに仏教文化が伝えられた。

製作年代の分かる本格的な最古の仏像は、605(推古13)年に鋳造を始めた飛鳥寺の金銅仏「飛鳥大仏」である。この時点で仏教伝来から50~60年の年月が経っている。この仏像の製作には、渡来人家系の鞍作止利(止利仏師)が携わっている。ただしこの像は眼の周辺と手の一部だけが当初のもので、残りの部分は後の時代のいわゆる後補である。したがって初期の仏教文化を知るには法隆寺を見る必要があると言われている。

つまり、私たちの仏像鑑賞の旅は、法隆寺から始まる。

飛鳥時代 仏教渡来(538年)~大化改新(645年)

600年頃 京都 広隆寺 国宝・半跏思惟像(弥勒菩薩)=渡来仏
605年  奈良 飛鳥寺 重文・釈迦如来坐像(飛鳥大仏)
607年  奈良 法隆寺・金堂 国宝・薬師如来坐像
623年  奈良 法隆寺・金堂 国宝・釈迦三尊像
不詳   奈良 法隆寺 国宝・百済観音立像
不詳   奈良 法隆寺・金堂 国宝・四天王立像
不詳   奈良 法隆寺・夢殿 国宝・救世観音立像
不詳   奈良 中宮寺 国宝・菩薩半跏像(伝如意輪観音)
不詳   奈良 法輪寺 重文・薬師如来坐像
不詳   奈良 法輪寺 重文・虚空蔵菩薩立像

白鳳時代 大化改新(645年)~平城京遷都(710年)

不詳   奈良 法隆寺 国宝・夢違観音立像
685年  奈良 興福寺 国宝・仏頭
不詳   奈良 蟹満寺 国宝・釈迦如来坐像
不詳   奈良 当麻寺 国宝・弥勒仏座像
不詳   奈良 当麻寺 重文・四天王立像(多聞天像を除く)
不詳   東京 深大寺 国宝・釈迦如来像
不詳   奈良 法隆寺 国宝・橘夫人念持仏(阿弥陀三尊像)

天平時代(奈良時代) 平城京遷都(710年)~平安京遷都(794年)

711年   奈良 法隆寺・五重塔 国宝・釈迦涅槃像等
711年   奈良 法隆寺・中門 重文・金剛力士像
不詳    奈良 薬師寺・金堂 国宝・薬師三尊像
不詳    奈良 薬師寺・東院堂 国宝・聖観音立像
推定733年 奈良 東大寺・法華堂 国宝・不空羂索観音立像
推定734年 奈良 興福寺 国宝・八部衆立像(阿修羅像等)
推定734年 奈良 興福寺 国宝・十大弟子立像
740年代  奈良 東大寺・法華堂 国宝・梵天/帝釈天立像
740年代  奈良 東大寺・法華堂 国宝・金剛力士立像
740年代  奈良 東大寺・法華堂 国宝・四天王立像
8世紀中頃 奈良 東大寺・法華堂 国宝・執金剛神立像
8世紀中頃 奈良 東大寺・法華堂 重文・弁財天/吉祥天立像
8世紀中頃 奈良 東大寺 国宝・日光/月光菩薩立像
8世紀中頃 奈良 東大寺・戒壇堂 国宝・四天王立像
不詳    奈良 新薬師寺 国宝・十二神将立像
不詳    奈良 大安寺 重文・十一面観音立像
不詳    奈良 大安寺 重文・千手観音立像(馬頭観音)
740年代  大阪 葛井寺 国宝・千手観音菩薩坐像
763年頃  奈良 唐招提寺 国宝・廬舎那仏坐像
765年頃  奈良 唐招提寺 国宝・鑑真和上坐像
781年頃  奈良 秋篠寺 重文・伎芸天立像
780年前後 奈良 唐招提寺・国宝館所蔵 木彫像群
791年   奈良 興福寺・北円堂 国宝・四天王立像
8世紀後半 奈良 聖林寺 国宝・十一面観音立像
8世紀後半 京都・山城 観音寺 国宝・十一面観音立像
8世紀後半 奈良 唐招提寺 国宝・千手観音菩薩立像
8世紀末  奈良 新薬師寺 国宝・薬師如来坐像

平安前期 平安京遷都(794年)~894年

800年頃  京都 神護寺 国宝・薬師如来立像
9世紀初  奈良 元興寺 国宝・薬師如来立像
不詳    小浜 妙楽寺 重文・二十四面千手観音立像
不詳    小浜 多田寺 重文・薬師如来立像
不詳    小浜 多田寺 重文・十一面観音立像(伝日光菩薩)
不詳    小浜 多田寺 重文・菩薩立像(伝月光菩薩)
9世紀初  大阪 道明寺 国宝・十一面観音立像
9世紀初  奈良 唐招提寺 国宝・薬師如来立像
9世紀初  奈良 東大寺 国宝・弥勒仏坐像(試みの大仏)
9世紀初  奈良 室生寺 国宝・十一面観音立像
9世紀初  奈良 室生寺 国宝・釈迦如来立像(中尊)
9世紀初  奈良 室生寺・宝物殿 国宝・釈迦如来坐像
818年以前 京都 広隆寺 国宝・不空羂索観音立像
815年頃  京都 神護寺 重文・日光/月光菩薩立像
830年頃  京都 広隆寺 国宝・千手観音立像
839年頃  京都 東寺 国宝・五菩薩坐像
839年頃  京都 東寺 国宝・五大明王像
839年頃  京都 東寺 国宝・四天王像
839年頃  京都 東寺 国宝・梵天/帝釈天像
839年頃  京都 神護寺・多宝塔 国宝・五大虚空蔵菩薩坐像
840年頃  京都 広隆寺 国宝・阿弥陀如来坐像
840年   奈良 法華寺 国宝・十一面観音立像
840年   滋賀 向源寺(渡岸寺)国宝・十一面観音立像
851年   京都 来迎院 重文・薬師/釈迦/阿弥陀各如来坐像
不詳    京都・山城 海住山寺・奥の院 重文・十一面観音立像
不詳    京都 月輪寺 重文・千手観音立像

平安中期 894年~1068年

896年   京都 清凉寺 国宝・阿弥陀三尊像
9世紀末  奈良 室生寺 重文・薬師如来立像
909年   京都 東寺 食堂 重文・千手観音立像
10世紀初期 小浜 羽賀寺 重文・十一面観音立像
913年頃  京都 醍醐寺 国宝・薬師三尊像
10世紀前半 京都 醍醐寺 重文・千手観音立像
946年   京都・山城 岩船寺 重文・阿弥陀如来坐像
951年   京都 六波羅蜜寺 国宝・十一面観音立像
977年   京都 六波羅蜜寺 重文・薬師如来坐像
10世紀   京都・山城 笠置寺 十一面観音立像
10世紀   京都 月輪寺 重文・十一面観音立像
985年   京都 清凉寺 国宝・釈迦如来立像
991年   京都・山城 禅定寺 重文・十一面観音立像
10世紀後半 神奈川・日向山霊山寺・宝城坊 重文・薬師三尊像
1000年頃  京都 室生寺・灌頂堂 重文・如意輪観音
1012年   京都 広隆寺 重文・千手観音坐像
1020年頃  京都 浄瑠璃寺 国宝・阿弥陀如来坐像(九体仏)
1040年頃  京都・山城 寿宝寺 重文・千手観音立像
1044年頃  横浜 弘明寺 重文・十一面観音立像
1053年   京都 平等院 国宝・阿弥陀如来坐像
1064年   京都 広隆寺 重文・日光・月光菩薩立像
1064年   京都 広隆寺 国宝・十二神将立像
1066年   福岡 観世音寺 重文・聖観音坐像

平安後期 1068年~1185年

1094年 京都 即成院 重文・二十五菩薩像
1096年 京都 法界寺 国宝・阿弥陀如来坐像
不詳   京都 鞍馬寺 国宝・毘沙門天立像
1112年 奈良 円成寺 重文・阿弥陀如来坐像
1130年 京都 法金剛院 国宝・阿弥陀如来坐像
1145年 奈良 西大寺・四王堂 重文・十一面観音菩薩立像
1148年 京都 三千院 国宝・阿弥陀三尊像
1151年 奈良 長岳寺 重文・阿弥陀三尊像
1165年 小浜 羽賀寺 重文・千手観音立像
1176年 奈良 円成寺 国宝・大日如来坐像(運慶作)
1177年 京都 大覚寺 重文・五大明王像
1178年 小浜 羽賀寺 重文・毘沙門天立像
不詳   京都 永観堂 重文・阿弥陀如来立像(見返り阿弥陀)
不詳   小浜 明通寺 重文・薬師如来坐像
不詳   小浜 明通寺 重文・降三世明王立像
不詳   小浜 明通寺 重文・深沙大将立像
不詳   小浜 圓照寺 重文・大日如来坐像
不詳   小浜 圓照寺 重文・不動明王立像

鎌倉時代 1185年~1333年

1186年  伊豆 願成就院 国宝・阿弥陀如来坐像(運慶作)
1186年  伊豆 願成就院 国宝・不動明王三尊立像(運慶作)
1186年  伊豆 願成就院 国宝・毘沙門天立像(運慶作)
1189年  横須賀 浄楽寺 重文・阿弥陀三尊像(運慶作)
1189年  横須賀 浄楽寺 重文・毘沙門天立像(運慶作)
1189年  横須賀 浄楽寺 重文・不動明王立像(運慶作)
1189年  奈良 興福寺・北円堂 不空羂索観音菩薩坐像
1190年頃 奈良 興福寺 金剛力士立像
1192年  京都 醍醐寺・三宝院 弥勒菩薩坐像(快慶作)
1194年  滋賀 石山寺 大日如来坐像(快慶作)
1194年  京都 遣迎院 阿弥陀如来立像(快慶作)
1195頃  兵庫 浄土寺 阿弥陀三尊立像(快慶作)
13世紀初 京都・山城 海住山寺 四天王立像
鎌倉初期  京都・山城 現光寺 十一面観音坐像
1200年  和歌山 金剛峯寺 孔雀明王像(快慶作)
1201年  奈良 東大寺 僧形八幡坐像(快慶作)
1201年  兵庫 浄土寺 阿弥陀如来立像(快慶作)
1202年  奈良 興福寺 薬王・薬上菩薩立像
1203年  奈良 東大寺・南大門 金剛力士像(運慶・快慶他)
1203年  奈良 安部文珠院 文殊菩薩(快慶作)
1203年  奈良 東大寺・俊乗堂 阿弥陀如来立像(快慶作)
1203年  京都 醍醐寺・三宝院 不動明王坐像(快慶作)
1207年頃 奈良 興福寺・東金堂 十二神将立像
1212年  奈良 興福寺・北円堂 弥勒如来坐像
1212年頃 奈良 興福寺・北円堂 無著・世親立像(運慶作)
1215年  奈良 興福寺 天燈鬼・龍燈鬼像
1216年  京都 千本釈迦堂 十大弟子像(快慶作)
1216年  京都 千本釈迦堂 釈迦如来坐像
1224年  京都 千本釈迦堂 六観音
1226年  京都 鞍馬寺 観音菩薩立像
1230年頃 京都 六波羅蜜寺 空也上人像
1232年  奈良 法隆寺 阿弥陀三尊像
1233年  京都 宝積寺 十一面観音立像
1247年  奈良 西大寺 愛染明王坐像
1249年  奈良 西大寺 釈迦如来立像
1250年頃 奈良 室生寺 十二神将
1250年頃 京都 三十三間堂 千手観音立像(千体仏)
1250年頃 京都 三十三間堂 二十八部衆像(風神・雷神)
1252年頃 鎌倉 高徳院 阿弥陀如来坐像
1254年  京都 三十三間堂 国宝・千手観音坐像(中尊・湛慶作)
1289年  奈良 薬師寺・東院堂 四天王立像

 日本の仏像は、飛鳥白鳳時代から天平時代にかけ、中国大陸や朝鮮半島からの直接、間接の影響を受けながら、その上で自らの独自性を形成した。これはその後の平安時代、鎌倉時代に至るまで基本的に変わらない。そして鎌倉時代以後の時代も多くの仏像が造られた。

しかし、禅宗の隆盛によって次第に座禅による自己救済が唱えられるようになり、信仰の対象としての仏像の役割はほぼ終了することになる。

法隆寺に始まった私たちの仏像鑑賞の旅は、1254年、運慶の長男湛慶によって造られた京都三十三間堂の千手観音坐像(中尊)を観てほぼ終止符を打つ。およそ650年にわたる旅だった。

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仏像年表

Posted by kojiro